「管理者」は、個人開設か医療法人開設かを問わず、すべての診療所に必置の医療法上の責任者です。

個人開設では原則として開設者=管理者となるため意識されにくいものの、医療法人では開設者・管理者がそれぞれ別の概念として登場し、ここを混同すると分院展開や承継の場面で手続きが滞る原因になります。

本コラムでは、管理者要件の基本、理事・理事長との違い、変更手続きの流れを解説します。

診療所の管理者とは?

診療所の管理者とは、医療法第10条に基づき、開設者が診療所を管理させるために置く責任者であり、医師(歯科診療所では歯科医師)でなければなりません。

管理者は、診療所に勤務する医師・歯科医師・薬剤師その他の従業者を監督し、診療所の適切な運営に必要な注意を払う義務を負います(医療法第15条第1項)。

具体的には、

  • ・医療安全管理体制の整備
  • ・院内感染対策の実施
  • ・医薬品や医療機器の安全管理
  • ・従業者への指導・監督
  • ・各種法令や院内規程の遵守

など、診療所運営全般について責任を負う立場です(医療法第6条の12、医療法施行規則第1条の11)。

一般的には「院長」が管理者を兼ねていることが多いものの、管理者は単なる役職名ではなく、医療法上の責任者として位置付けられています。

また、診療所開設者と管理者は同一人物である場合もあれば、異なる場合もあります。

特に医療法人では、理事長と診療所管理者が別の人物となるケースも少なくありません。

そのため、「院長」「管理者」「理事」「理事長」はそれぞれ異なる概念であり、役割や法的な位置付けを整理して理解することが重要です。

診療所の管理者要件で確認すべきこと

診療所の管理者に就任するためには、医療法に基づく要件を満たす必要があります。

医療法人の設立や分院開設、管理者変更の際には、特に以下の点を確認することが重要です。

① 臨床研修等を修了した医師または歯科医師であること

診療所の管理者は、診療所の種別に応じて医師または歯科医師でなければなりません(医療法第10条)。

医科診療所:医師
歯科診療所:歯科医師

ここでいう医師・歯科医師は、臨床研修等を修了し、その登録を受けた者(臨床研修等修了医師・臨床研修等修了歯科医師)に限られます。

免許を有していても臨床研修を修了していない場合は管理者となれないため、就任予定者の臨床研修修了登録の有無は最初に確認すべきポイントです。

② 当該診療所に常勤していること

診療所の管理者は、医療法上の管理者の責務(医療法第15条第1項等)を実効的に果たす必要があることから、行政運用上、原則として勤務時間中は常勤であることが求められます。この取扱いは、「診療所の管理者の常勤について」(令和元年9月19日付け医政総発0919第3号・医政地発0919第1号)により明確化されています。

したがって、非常勤勤務の医師や、他施設を主たる勤務先としている医師を管理者とすることは、原則として認められません。

なお、同通知は「診療時間中」ではなく「勤務時間中」の常勤を求めるものであり、管理者が当該診療所の全診療時間にわたり在席していなければならない趣旨ではありません。もっとも、外来診療時間中の在席の要否など、具体的な運用には自治体(保健所)ごとの差があるため、事前に所管保健所へ確認しておくことが望ましいでしょう。

③ 他の病院・診療所の管理者を原則として兼任しないこと

管理者は、原則として複数の病院や診療所の管理者を兼ねることはできません(医療法第12条第2項)。

もっとも、地域医療の確保や医師不足などの事情がある場合には、都道府県知事等の許可により兼任が認められることがあります。

特に医療法人による分院展開では、「本院長が分院長も兼ねられるか」という相談を受けることがありますが、各院ごとに管理者を確保することが基本となります。

④ 医師免許・歯科医師免許の効力に問題がないこと

医師法第7条(歯科医師法第7条)に基づく免許取消処分を受けた者や、業務停止処分の期間中にある者は、医業(歯科医業)を行うことができないため、管理者となることはできません。

管理者変更や開設手続きの際には、免許証の原本確認に加え、行政処分の有無についても確認しておくことが安全です。

医療法人の場合は管理者と理事の関係に注意

個人開設の診療所と異なり、医療法人が診療所を開設する場合には、管理者と医療法人の役員構成との関係にも注意が必要です。

医療法第46条の5第6項により、医療法人が開設する病院・診療所・介護老人保健施設・介護医療院の管理者は、原則として当該医療法人の理事に就任しなければならないとされています。

(施設を2以上開設する医療法人については、都道府県知事の認可を受けた場合に限り、管理者の一部を理事に加えないことが認められています)

そのため、医療法人における管理者変更は、単に保健所へ管理者変更届を提出すれば完了するものではありません。

管理者が交代する場合には、あわせて次の事項を確認する必要があります。

  • ・新たに管理者となる医師が理事に就任しているか
  • ・理事に就任していない場合は社員総会での理事選任手続きが必要
  • ・定款に定める理事定数を満たしているか(定数を超える場合は定款変更が先行)
  • ・都道府県への役員変更届が必要
  • ・理事長が交代する場合は、理事長変更の登記手続きが必要

このように、管理者変更と理事変更は連動して検討する必要があります。

また、退任する管理者についても、理事を継続するのか、理事も辞任するのかを整理しなければなりません。

特に医療法人では、

  • ・管理者交代日
  • ・理事就任日・辞任日
  • ・保健所への届出日(変更後10日以内)
  • ・理事長交代を伴う場合、理事長選出の理事会開催日・登記申請日

の整合性が求められるため、事前にスケジュールを調整しておくことが重要です。

管理者変更を検討する際は、保健所対応だけでなく、医療法人の役員構成まで含めて確認することをおすすめします。

管理者・院長・理事・理事長の違い

診療所や医療法人の運営では、「管理者」「院長」「理事」「理事長」という言葉が使われますが、それぞれ役割や法的な位置付けが異なります。

特に医療法人では、これらを混同したまま役員変更や管理者変更を進めてしまうと、届出や登記に影響することがあるため注意が必要です。

まず理解しておきたいのは、「管理者」は診療所を管理する人、「理事・理事長」は医療法人を運営する人という点です。

管理者

管理者は、医療法第10条に基づき置かれる診療所の法定責任者です。

医療安全管理や院内感染対策、従業者の監督など、診療所の運営について責任を負います。

医科診療所では医師、歯科診療所では歯科医師が就任します。

保健所への届出や行政手続きにおいても、「院長」ではなく「管理者」が基準となります。

院長

院長は、診療所の責任者を指す呼称として一般的に使用されているものです。

もっとも、院長という役職自体は医療法に定められたものではありません。

実務上は管理者を院長としているケースがほとんどであり、多くの場合は「院長=管理者」となります。

ただし、法令上はあくまでも管理者が基準となるため、「院長変更」ではなく「管理者変更」として手続きを行います。

理事

理事は、医療法人の運営を担う役員であり、社員総会の決議によって選任されます(医療法第46条の5第2項)。

法人にのみ存在する役職であり、個人開設の診療所にはありません。

理事会で法人の運営方針を決定し、医療法人全体の業務執行に関与します。

なお、医療法人の診療所管理者は、原則としてその医療法人の理事に就任しなければなりません(医療法第46条の5第6項)。

理事長

理事長は、医療法人を代表する役職であり、原則として医師または歯科医師である理事の中から、理事会で選出されます(医療法第46条の6第1項)。

契約の締結や行政手続きなど、法人を代表して行為を行う権限を持ち、医療法人で登記されるのは理事長のみです。

一方で、診療所の日常的な管理責任を負うのは管理者であり、理事長と管理者は役割が異なります。

医療法人では理事長と管理者が別の人になることもあります。

(個人開設の診療所では、開設者・管理者・院長が同一人物であることが一般的です。)

理事長が法人全体の経営を担い、各診療所の院長が管理者として診療所運営を行うケースも少なくありません。

そのため、医療法人においては、

  • ・管理者は診療所を管理する人
  • ・院長は法令上の役職ではなく、実務上は管理者を指す呼称
  • ・理事は医療法人を運営する役員
  • ・理事長は医療法人を代表する人

という違いを理解しておくことが重要です。

保険医療機関の管理者要件もあわせて確認が必要

診療所の管理者については、医療法上の要件だけでなく、保険医療機関としての要件も確認する必要があります。

特に令和8年4月1日からは、医療法等の一部を改正する法律(令和7年法律第87号)による健康保険法の改正により、保険医療機関の管理者に関する要件が新設されました(健康保険法第70条の2第1項)。

そのため、医療法上は管理者になれる場合であっても、保険医療機関の管理者として認められないケースが生じる可能性があります。

令和8年4月1日から診療従事経験の要件が新設

従来、保険医療機関の管理者について法令上の資格要件は特に定められていませんでした。

しかし、令和8年4月1日施行の健康保険法改正により、新たに保険医療機関の管理者となる場合は、原則として次の要件を満たす必要があります。

保険医であること

臨床研修修了後、病院(歯科医師の場合は病院または診療所)において3年以上保険診療に従事した経験を有すること

なお、令和8年4月1日時点で既に臨床研修を修了している医師・歯科医師については、臨床研修期間を含め、病院・診療所を問わず3年以上保険診療その他の業務に従事した経験があれば要件を満たすものとされています。

経験年数の考え方

3年間の経験は単純な在籍期間ではなく、実際の勤務実績に基づいて判断されます。

原則として、週4日以上の常態としての勤務、かつ所定労働時間が週31時間以上であることを基本とし、これを満たした月を1か月として算定のうえ、36か月分の勤務実績が求められます。

もっとも、医局人事等により複数の保険医療機関に勤務する場合、育児・介護による短時間勤務の場合、大学・大学院在籍中に診療に従事する場合などについては、それぞれ配慮措置が設けられています。

要件を満たさなくても管理者となれる場合

このほか、地域枠・自治医科大学出身でキャリア形成プログラムの適用を受けている場合、日本専門医機構が認定する専門医資格を有する場合、公務員として5年以上の勤務経験がある場合、緊急に保険医療機関を承継するなどやむを得ない理由がある場合等にも、管理者となることが認められています。

特に「緊急の承継」は、院長の急逝等に伴う事業承継の場面で実務上重要な類型です。

現在すでに管理者である場合の経過措置

令和8年4月1日時点で保険医療機関の管理者である方は、要件を満たしていない場合でも、同一の保険医療機関の管理者である限り、令和11年3月31日までの3年間は引き続き管理者を務めることができます。

ただし、他の保険医療機関の管理者に就任する場合や、経過措置期間の経過後は、要件を満たす必要があります。

管理者変更時は保健所だけでなく厚生局の確認も重要

診療所の管理者変更を行う際は、保健所への管理者変更届だけでなく、保険医療機関としての管理者要件を満たしているかの確認が必要です。

令和8年4月1日以降、保険医療機関の指定申請・管理者変更の届出の際には、要件を満たしていることを確認できる書類の添付が求められています。

特に若手医師・若手歯科医師を管理者に就任させる場合や、法人化・分院展開に伴い管理者を選任する場合には、診療従事経験の要件を満たしているかを事前に確認しておくことが重要です。

管理者変更後に要件不足が判明すると、保険医療機関としての手続きに影響するため、不明な点は管轄の地方厚生局へ事前に確認することをお勧めいたします。

管理者変更で必要になる主な手続き

診療所の管理者が退職や異動などにより変更となる場合は、各種届出が必要になります。

また、医療法人では管理者変更に加えて役員変更や登記が必要となることもあるため、事前にスケジュールを確認しておくことが重要です。

個人開設・医療法人共通で必要な手続き

まず、開設形態にかかわらず必要となる主な手続きは次のとおりです。

なお、個人開設の診療所では原則として開設者=管理者であるため、その医師自身が交代する場合は「管理者変更」ではなく、診療所の廃止・新規開設(保険医療機関については廃止と新規指定。指定の遡及の可否は別途確認が必要)の手続きとなります。

以下は、開設者は変わらず管理者のみが交代する場合の手続きです。

保健所への管理者変更届

管理者を変更した場合は、医療法施行令第4条に基づき、所管保健所へ管理者変更届を提出します。

提出期限は原則として変更後10日以内です。

必要書類や提出部数は自治体によって異なるため、事前に所管保健所へ確認しておくと安心です。

地方厚生(支)局への届出

保険医療機関の指定を受けている場合は、地方厚生(支)局への管理者変更に関する届出も必要になります。

特に令和8年4月以降は、保険医療機関の管理者に診療従事経験の要件が設けられ、届出の際には要件を満たすことを確認できる書類の添付が求められるため、管理者候補者が要件を満たしているかを事前に確認しておくことが重要です。

医療法人で追加で必要となる手続き

医療法人では、管理者変更に伴い理事の変更手続きが必要になるケースがあります。

理事就任・辞任の手続き

医療法人の診療所管理者は、原則として当該医療法人の理事でなければなりません(医療法第46条の5第6項)。

そのため、新たな管理者が理事に就任していない場合は、社員総会での理事選任手続きが必要になります。

また、退任する管理者についても、理事を継続するのか、理事も辞任するのかを整理する必要があります。

役員変更に関する届出

理事の変更が生じた場合は、都道府県へ役員変更届の提出が必要になります。

添付書類は自治体によって異なるため、事前確認が欠かせません。

理事長交代を伴う場合の変更登記

医療法人で登記されるのは理事長のみであるため、一般の理事の就任・辞任だけであれば登記は不要です。

一方、管理者変更が理事長の交代を伴う場合(本院の管理者交代など)は、理事会での理事長選出と、法務局での変更登記が必要になります。

登記手続きは司法書士の業務領域となるため、早めに連携しておくことをおすすめします。

管理者変更で最も重要なのは「空白期間を作らないこと」

管理者変更で最も注意したいのは、管理者不在期間を生じさせないことです。

管理者の設置は医療法上の義務であるため、前任管理者の退任日と後任管理者の就任日を調整し、診療所に管理者が存在しない期間が発生しないようにする必要があります。

特に退職や承継に伴う管理者変更では、

  • ・管理者変更日
  • ・保健所への届出(変更後10日以内)
  • ・地方厚生(支)局への届出
  • ・理事就任日(社員総会の開催日)
  • ・(理事長交代を伴う場合)登記手続き


を一体としてスケジュール管理することが重要です。

管理者変更は単なる人事異動ではなく、医療法・健康保険法・医療法人制度に関わる複数の手続きが連動するため、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

まとめ 管理者要件は個人・医療法人の違いを踏まえて確認しましょう

診療所の管理者は、医療法上、診療所の運営について責任を負う重要な立場です。

管理者に就任するためには、医療法上の要件だけでなく、保険医療機関であれば健康保険法上の要件も確認しなければなりません。

特に令和8年4月からは、保険医療機関の管理者に診療従事経験の要件が設けられており、これまで以上に事前確認が重要となっています。

また、医療法人では管理者が原則として理事に就任する必要があるため、管理者変更は単なる保健所への届出だけでは完結しません。

役員変更、登記(理事長交代を伴う場合)、都道府県への届出、地方厚生(支)局への届出など、複数の手続きが連動するケースがあります。

特に、後任管理者の選定や就任時期を誤ると、管理者不在期間が生じたり、保険医療機関としての手続きに影響したりする可能性もあります。

管理者変更や医療法人の役員変更を検討する際は、早い段階で必要な手続きやスケジュールを整理し、漏れのない対応を進めることが大切です。

行政書士シルス医療法務事務所でサポートできること

行政書士シルス医療法務事務所では、診療所の管理者変更に関する各種手続きのサポートを行っています。

  • ・管理者要件の確認(医療法・健康保険法の両面からの検証)
  • ・管理者交代に伴うスケジュール策定および関係機関との事前調整
  • ・保健所への管理者変更届の作成・提出支援
  • ・地方厚生(支)局への各種届出対応
  • ・医療法人における役員変更手続きのサポート
  • ・都道府県への役員変更届・定款変更認可申請への対応
  • ・司法書士と連携した登記手続きの調整

管理者変更は、単なる人事異動ではなく、医療法・健康保険法・医療法人制度に関わる複数の手続きが連動する重要な手続きです。

特に、医療法人化、分院開設、事業承継、世代交代に伴う管理者変更では、早い段階で手続き全体を整理することが円滑な移行につながります。

管理者要件の確認から各種届出まで、医療機関に特化した行政書士としてサポートいたします。

管理者変更をご検討の際は、お気軽にご相談ください。