診療所を廃止(閉院・廃院)する際には、保健所への廃止届だけで手続きが完了するわけではありません。

保険医療機関の廃止届、公費負担医療の指定に関する届出、麻薬免許に伴う手続き、各種契約の整理など、状況に応じて複数の行政手続きが必要となります。しかも提出先はそれぞれ異なり、「廃止後10日以内」といった短い期限が定められているものも少なくありません。届出の漏れや遅れは、患者対応に影響を及ぼすこともあります。

特に医療法人が開設する診療所では、診療所の廃止だけでなく、定款変更や法人解散など、法人運営に関する手続きも併せて検討しなければなりません。

本記事では、クリニックを閉院する際に必要となる主な行政手続きと、円滑に廃止を進めるための注意点について、医療法務の実務の観点から分かりやすく解説します。

診療所の廃止手続きとは?

診療所(クリニック)の廃止(閉院・廃院)にあたっては、保健所へ廃止届を提出すればすべての手続きが完了するわけではありません。

開設者が個人か医療法人かによって必要となる手続きは異なり、保健所だけでなく、地方厚生局や医療法人の所管庁など、複数の行政機関への届出や申請が必要になる場合があります。特に医療法人が開設する診療所では、診療所の廃止に加えて、定款変更や法人解散といった法人運営に関する手続きも検討しなければなりません。

また、保険医療機関の廃止届、公費負担医療の指定に関する届出、診療用エックス線装置や麻薬免許(管理者・施用者)に関する手続きなど、診療所廃止に伴って確認すべき事項は多岐にわたります。これらは提出先も期限もそれぞれ異なるため、全体像を把握したうえで逆算して進めることが重要です。

本記事では、診療所の廃止に際して必要となる行政手続きについて、書類の書き方ではなく、全体の流れや手続きの概要を中心に分かりやすく解説します。

診療所の廃止と休止の違い

診療所を閉める場合には、「廃止」と「休止」のどちらに該当するかを適切に判断する必要があります。

廃止とは、診療所としての運営を終了する場合をいい、原則として再開を予定していないケースが該当します。一方、休止とは、将来的な診療再開を前提として、一時的に診療を停止する場合をいいます。例えば、院長の療養や建替え工事などにより、一定期間診療を休む場合が考えられます。

両者の最も大きな違いは、元に戻せるかどうかです。休止であれば、診療を再開する際に再開の届出を行うことで従前の診療所を継続できますが、いったん廃止した診療所を再び開くには、新規開設の手続きを一から行うことになります。

ただし、休止がいつまでも認められるわけではありません。医療法第8条の2第1項は、正当の理由なく1年を超えて休止することを禁じています。

医療法第8条の2第1項
「病院、診療所若しくは助産所の開設者又はオンライン診療受診施設の設置者は、正当の理由がないのに、その病院、診療所、助産所又はオンライン診療受診施設を一年を超えて休止してはならない。ただし、前条の規定による届出をして開設した診療所又は助産所の開設者については、この限りでない。」

ここで注意が必要なのが、ただし書きの存在です。医療法第8条第1項の届出により開設した診療所、すなわち臨床研修等修了医師が自ら開設した診療所については、この1年を超える休止の禁止は適用されません。

一方、医療法人が開設する診療所は医療法第7条の許可により開設したものであるため、ただし書きの適用はなく、1年を超える休止は認められません。同じ「休止」であっても、開設形態によって制約が異なります。

もっとも、ただし書きが適用される場合であっても、休止したときに10日以内の届出が必要である点は変わりません(医療法第8条の2第2項)。また、長期にわたり診療を停止した状態が続けば、保険医療機関としての取扱いや、所管保健所からの実態確認の対象となることがあります。医療法上の制約と、実務上支障が生じないかどうかは別の問題です。休止を選択する場合も、再開の見通しを踏まえた判断が求められます。

どちらの手続きを選択するかは、今後の再開予定の有無や、事業承継・法人化などの計画を踏まえて判断することが重要です。

なお、第三者へ診療所を引き継ぐ場合であっても、開設者が変わる以上は「休止」ではなく、廃止と新規開設の手続きによって処理されるのが原則です。

また、保健所への診療所の手続きだけでなく、保険医療機関についても「廃止」「休止」「再開」の区分ごとに地方厚生局への届出が必要となります。保健所と地方厚生局は別の制度に基づく手続きであるため、それぞれの区分に応じて漏れなく進める必要があります。

診療所の廃止時(閉院時・廃院時)に必要となる主な行政手続き

診療所を廃止する際には、1つの届出だけで手続きが完了するわけではありません。診療内容や開設者の種別によって必要な手続きは異なりますが、主な行政手続きは次のとおりです。

1. 保健所への診療所廃止届

医療法に基づき、診療所を廃止した場合は、所管する保健所へ診療所廃止届を提出する必要があります。

廃止後10日以内の届出が、医療法上義務付けられています。なお、廃止ではなく休止とする場合も、同様に10日以内の届出が必要です(廃止:医療法第9条第1項/休止:医療法第8条の2第2項)。

2. 地方厚生局への保険医療機関の廃止届

健康保険法に基づく保険医療機関については、地方厚生局(都道府県事務所)へ保険医療機関の廃止に関する届出を行います。

保健所への診療所廃止届とは、根拠となる法律も提出先も異なる、まったく別の手続きです。保健所へ届け出れば足りると誤解されやすい部分であり、提出漏れに注意が必要です。

3. 公費負担医療の指定医療機関に関する手続き

生活保護法による指定医療機関をはじめ、指定自立支援医療機関、難病の指定医療機関、結核指定医療機関など、公費負担医療に関する指定を受けている場合は、それぞれの制度に応じた廃止の手続きが必要となります。

これらは制度ごとに提出先が分かれており、都道府県の担当課のほか、市が窓口となるものもあります。また、医療機関としての指定とは別に、医師個人が指定医の指定を受けている場合には、その取扱いも併せて確認が必要です。

4. 診療内容に応じた許可・指定・届出の終了手続き

診療所で取得している許可・届出についても、それぞれ終了の手続きが必要です。代表的なものとして、次のようなものが挙げられます。

  • 診療用エックス線装置を備え付けている場合は、保健所への廃止の届出
  • 麻薬施用者免許(麻薬管理者免許を受けている場合はその免許も含む)を受けている場合は、都道府県(薬務主管課)への業務廃止の届出

特に麻薬については、免許に関する届出だけでなく、廃止時点で所有している麻薬をどう処理するかという問題が生じます。届出のうえ、定められた期限内に手続きを完了させなければなりません。

診療所廃止間際に着手すると間に合わないおそれがあるため、早い段階での確認をおすすめします。

これらのほか、診療科目や設備の内容によって必要な手続きは異なります。

5. 税務・労務・社会保険に関する手続き

診療所廃止に伴い、税務署への届出、従業員に関する労務手続き、社会保険・雇用保険の手続きなども必要となります。

これらは税理士や社会保険労務士など、それぞれの専門家へ相談しながら進めることをおすすめします。廃止日が決まった段階で、各専門家へ早めに共有しておくと、手続きが円滑に進みます。

6. 診療録などの保存

診療所を廃止しても、診療録の保存義務が直ちになくなるわけではありません。

診療録は5年間、エックス線写真などは3年間の保存義務があり、廃止後も引き続き保存する必要があります。誰がどこで保管するのか、患者から開示を求められた場合にどう対応するのかを、あらかじめ決めておく必要があります。

廃止日から逆算してスケジュールを整理することが重要

各手続きは、提出先も提出期限もそれぞれ異なります。廃止後に提出するものだけでなく、麻薬の処理や患者への周知、院内掲示など、廃止日より前に着手しておかなければ間に合わないものもあります。

廃止日を決めた段階で、「何を」「いつまでに」「どこへ」提出するのかを一覧として整理し、逆算して準備を進めることが重要です。

個人開設の診療所を廃止する場合の手続き

個人開設の診療所を廃止する場合は、廃止日を決めて届出を提出するだけではなく、患者対応や各種契約の整理なども含めて計画的に準備を進めることが重要です。

特に、診療所廃止日は「いつにするか」を先に決めるというよりも、各種手続きや契約の整理に必要な期間から逆算して定めるのが実務的です。

一般的には、次のような流れで手続きを進めます。

1. 診療終了日・診療所廃止日を決定する

患者への周知、各種届出の期限、契約整理や原状回復に要する期間などを踏まえ、診療終了日と診療所廃止日を決定します。

これらは同じ日とは限らず、診療をやめた後も片付けや手続きのために一定の期間を要する場合もあります。

2. 保健所・地方厚生局への手続きを確認する

診療所廃止届や保険医療機関の廃止届をはじめ、公費負担医療や麻薬・エックス線装置など、必要な行政手続きを洗い出し、それぞれの提出期限に合わせて準備を進めます。

提出先ごとに期限が異なるため、一覧にして管理すると漏れを防げます。

3. 患者対応と診療録等の保存方法を整理する

患者への閉院案内や、継続受診が必要な患者の紹介先の検討に加え、診療録(カルテ)など法令上保存が必要な書類について、保存方法や保管場所をあらかじめ決めておきます。

診療所廃止後も保存義務は続くため、どこで管理するかを明確にしておくことが重要です。

4. 従業員・契約関係・院内の整理を行う

従業員への対応のほか、賃貸借契約やリース契約、医療機器、各種業者との契約についても、診療所廃止日までに順次整理します。

テナントで開設している場合は、原状回復(内装の撤去・返還)に相応の期間を要することが多く、医薬品や医療機器の処分、医療廃棄物の処理にも手配が必要です。いずれも直前では間に合わないことがあるため、早めの着手をおすすめします。

なお、第三者への事業承継や診療所の移転を伴う場合は、単純な廃止とは必要となる行政手続きが異なります。

特に事業承継では、診療所を閉じるタイミングと後継者が新たに開設するタイミングの調整を誤ると、保険診療を行えない空白期間が生じるおそれがあります。個別の状況によっては、廃止ではなく承継や移転を前提とした手続きが適切な場合もあるため、早い段階で専門家へ相談することをおすすめします。

医療法人が診療所を廃止する場合の手続き

医療法人が開設する診療所を廃止する場合は、個人開設の場合とは異なり、診療所そのものの廃止手続きに加えて、医療法人に関する手続きも併せて検討する必要があります。

一部の診療所のみを廃止するのか、唯一の診療所を廃止するのか

まず、複数の診療所を運営する医療法人が一部の診療所のみを廃止する場合と、唯一の診療所を廃止する場合とでは、必要となる手続きが大きく異なります。

前者は医療法人自体を存続させる前提での手続きとなりますが、後者は医療法人を今後どうするか、存続させるのか、解散するのかという判断が伴います。

定款変更の認可が必要になる

医療法人の定款(財団医療法人の場合は寄附行為)には、開設する診療所の名称や所在地が記載されています。そのため、定款に記載された診療所を廃止する場合には、定款変更が必要となります。

医療法人の定款変更は、単に法人内で決めれば足りるものではなく、都道府県知事等の認可を受ける必要があります。

認可申請にあたっては、社員総会(財団の場合は理事会・評議員会)の決議や議事録の作成など、医療法人としての内部手続きを適切に行ったうえで、所定の書類を整えて申請します。認可には一定の審査期間を要するため、廃止のスケジュールから逆算して早めに着手することが重要です。

定款変更の認可を受けた後は、法務局での登記や、登記完了後の都道府県等への届出が必要です。登記手続きそのものは司法書士が扱う領域となるため、必要に応じて連携しながら進めます。

唯一の診療所を廃止し、医療法人を解散する場合

医療法人が開設する唯一の診療所を廃止する場合は、医療法人を存続させられるかどうかを含めた検討が必要です。法人自体を解散する選択もあり、今後の事業計画によって進め方が変わります。

医療法人を解散する場合は、解散の事由に応じて都道府県知事等の認可や届出、その後の清算手続きが必要となります。

清算では、残余財産の取扱いについて医療法や定款上の制約を受けることがあり、解散は短期間で完了するものではないため、早い段階から計画的に準備を進める必要があります。

いずれの場合も、まずは管轄行政庁への事前相談を

医療法人に関する申請や届出は、主たる事務所を所管する都道府県等が窓口となります。

手続きの要否や進め方は個別の事情によって異なり、自治体ごとに運用が異なる場合もあります。診療所の廃止と医療法人の手続きは相互に関係するため、早い段階で所管庁へ事前相談を行い、全体像を確認しながら進めることをおすすめします。

診療所の廃止手続きを進める流れ

診療所の廃止手続きは、一般的に次のような流れで進めます。

1. 診療所廃止の方法と予定日を決める

廃止か、休止後の廃止か、承継・移転を予定しているのかを整理し、診療所廃止日・診療終了日を決定します。各手続きに要する期間から逆算して日程を組むのが実務的です。

2. 開設者・許可・指定の状況を確認する

開設者が個人か医療法人かを確認し、保険医療機関・公費負担医療・エックス線装置・麻薬免許など、自院に必要な手続きを洗い出します。

3. 関係する行政機関へ事前相談する

保健所、地方厚生局、医療法人の所管庁など、関係機関へ事前に相談し、必要な手続きとスケジュールを確認します。

4. 医療法人の場合は法人内手続きを行う

社員総会・理事会等の決議や定款変更など、法人として必要な内部手続きを進めます。

5. 診療所廃止日前後に必要な申請・届出を行う

提出期限に注意しながら、各行政機関へ申請・届出を行います。定款変更の認可など、審査に時間を要するものは早めに着手します。

6. 診療録の保存や患者対応など診療所廃止後の管理を行う

診療録の保存、患者対応など、閉院後も法令に基づき適切に管理します。

診療所の廃止手続きは、複数の行政機関への届出が必要となり、開設者や診療内容によって手続きも異なります。円滑に閉院を進めるためにも、診療所廃止日を決めた段階で全体のスケジュールを整理し、逆算して計画的に準備を進めることが重要です。

診療所の廃止手続きは行政書士に相談すべきか

診療所の廃止手続きは、ご自身で進めることも可能です。しかし、必要となる手続きは開設者や診療内容によって異なり、状況によっては複数の行政機関との調整が必要になるため、専門家へ相談することでスムーズに進められる場合があります。

例えば、個人開設の診療所で、必要な届出が比較的少ないケースであれば、ご自身で手続きを進められることもあります。

一方で、医療法人が開設する診療所の廃止や、定款変更、事業承継、移転などを伴うケースでは、事前に所管行政庁との協議が必要となることが多く、手続きも複雑になります。

また、保健所・地方厚生局・都道府県など提出先が複数にわたる場合は、それぞれ異なる提出期限を管理しながら、抜け漏れなく進めていく必要があります。

行政書士は、医療法及び関係法令に基づく行政手続きや、医療法人に関する申請・届出を扱う専門家です。個々の書類作成にとどまらず、複数の行政機関にまたがる手続きの全体像を整理し、スケジュールを逆算しながら進める役割を担えます。

一方で、登記は司法書士、税務は税理士、労務・社会保険は社会保険労務士、契約や紛争に関する事項は弁護士の専門分野となります。これらの分野については、必要に応じて各専門家と連携しながら進めることが大切です。

行政書士シルス医療法務事務所が支援できること

診療所の廃止には、保健所や地方厚生局への届出をはじめ、開設者の状況に応じてさまざまな行政手続きが必要となります。

当事務所では、医療機関に特化した行政書士として、診療所廃止(閉院・廃院)に伴う行政手続きを総合的にサポートしております。

主なサポート内容は次のとおりです。

  • 診療所廃止に伴って必要となる行政手続きの洗い出しと整理
  • 個人開設・医療法人の違いを踏まえた手続きスケジュールの作成
  • 医療法人の定款変更や、社員総会・理事会など法人内手続きの支援
  • 保健所、地方厚生局、医療法人所管庁などとの事前相談
  • 各種申請・届出書類の作成および提出
  • 事業承継や分院再編などを見据えた手続きのご提案
  • 必要に応じた司法書士・税理士・社会保険労務士・弁護士など他士業との連携

診療所の廃止は、単に「廃止届を提出して終わり」ではありません。開設者の種別や今後の事業計画によって、必要となる手続きや進め方は大きく異なります。

特に、複数の行政機関にまたがる手続きを、それぞれの期限に合わせて漏れなく進めるには、全体像を踏まえた段取りが欠かせません。

当事務所では、医療法務に特化した行政書士として、診療所の廃止から医療法人の定款変更、事業承継まで一貫してサポートしております。診療所廃止(閉院・廃院)をご検討の際は、お気軽にご相談ください。