診療は忙しいのに、書類は多く、期日は差し迫る。
——それが医療法人設立の現実です。
医療法人設立を確実に進める要点は、必要書類の整合性と事前審査、本申請、医療審議会までのスケジュールの管理です。
差戻しの典型は、申請書類の不備、審査基準の未達。
本記事では、事前準備から医療法人設立後の行政手続きの実務手順を、医療分野に特化した行政書士が解説します。ご参考ください。
医療法人設立は「事前準備 → 管轄行政庁の事前審査(設立認可申請書素案の提出) → 医療法人設立認可申請 → 認可後~設立登記→ 法人診療所開設」の5ステップ
①事前準備(2か月程度)
この時点で法人名称や役員社員構成をご検討いただき、必要書類を準備します。(医師、医療機関対応)
設立認可申請書(素案)の提出については、管轄行政庁ごとに受付時期や審査期間が異なるため事前確認が必要です。(行政書士サポート)
②管轄行政庁の事前審査(2~3か月程度)
提出した設立認可申請書(素案)から、定款や設立総会議事録の内容確認、予算書との整合性、賃貸借契約の長期安定性、資産要件など多くの提出書類について確認が入ります。
資産については顧問税理士にご協力いただき、決算書や減価償却内訳明細書をもとに書類を作成します。
本申請前に意思確認のため設立代表者面談を行う管轄行政庁もあります。(その場合は面談に同席し、サポートいたします。)
現時点では電子申請はほとんど認められておらず、押印廃止の流れの中、設立認可申請書類には捨印を含めて多くの実印押印が必要です。
押印は役員社員だけでなく、建物所有者、金融機関、リース会社など多岐にわたるため、事前に押印者に対し押印期日を確認しないと本申請に間に合わないケースもあります(事前審査終了から本申請までの期間は1か月をきる場合が多い)。
③医療法人設立認可申請
設立認可申請(本申請)は申請書の提出部数が管轄行政庁ごとに異なり、多い場合は正本1部を都道府県に、副本2部のうち1部を管轄保健所に、副本もう1部を法人保管用に、代理人用に控えを1部など多くの書類作成業務が発生します。
本申請後は大きな指摘がない場合は医療審議会待ちの時間になりますが、その間(約2か月)に医療法人設立登記申請や診療所開設に関する準備を行います。
④認可後~医療法人設立登記
医療審議会が終了すると設立認可書交付になります。
認可書交付時期を確認し、事前に登記申請に必要な書類を司法書士事務所に送付するなど調整が必要です。
設立認可申請書、設立認可書を司法書士事務所に送付し、事前にご指示いただいた法人設立日に登記申請を行います。
(法人設立日とは法人の誕生日です。認可予定日以降で設立日をご検討いただきます)
登記申請から登記完了までの期間は管轄法務局によるため、担当司法書士と連絡を取り合い進めます。
登記が完了したところで法人での診療所開設に進みます。
⑤法人診療所開設
個人開設は診療所開設届の提出で済みましたが、法人での診療所開設には診療所開設許可が必要なため、事前に管轄保健所に対し事前相談を行い、診療所開設許可について問題がないか確認が必要です。
診療所開設関連業務を進める一方で金融機関で法人口座を開設したり、関係各所へ法人開設の連絡をしたりと多くの事務作業が発生します。(医師、医療機関対応、スケジュール管理は行政書士がサポートします)
顧問税理士、顧問社労士と連絡を取り合い、税務や労務に関する手続きに対応していただきます。
医療法人設立認可⇒法人設立登記申請(医療法人設立)⇒診療所開設許可申請までがタイトなため進捗管理は必須であり、コツコツと準備を進めるほかに道はありません。
診療所開設許可がおりたら月初で診療所開設届出を行います。(その前日に個人開設の診療所廃止)
保険医療機関指定申請については法人化の場合は「保険医療機関等の開設者が「個人」から「法人組織」に、又は「法人組織」から「個人」に変更になった場合で、患者が引き続き診療を受けている場合」に該当するため例外的に指定期日を遡及して指定を受けることができます。
いつまでに何をする?医療法人設立の流れとチェックリスト
| 流れ | 詳細 |
|---|---|
| ①医療法人設立認可申請書(素案)提出2か月前 | 資料手配、役員社員構成、法人名称等決定、関係先(金融機関、建物所有者、リース会社等)提出書類に押印内諾のお願い |
| ②医療法人設立認可申請書(素案)提出(期日指定あり、約1週間ほど) | 同時期に保健所事前相談(個人開設届出より変更がないか、変更がある場合は事前対応、図面や賃貸借契約書に問題ないか) |
| ③事前審査期間2~3か月 | 審査担当者とのやり取り、追加書類提出や修正指示に対応、数回のやり取りで審査を終えられるよう事前準備は必須。 |
| ④本申請 | 期日指定あり、事前審査が終わったところから押印書類の手配に入るため、審査期間を短くすることが重要 |
| ⑤医療審議会への諮問、答申 | 管轄行政庁の担当者間で対応、指摘があれば即対応 |
| ⑥医療法人設立認可書交付 | ④本申請後、⑥認可書交付までに登記申請準備、診療所開設許可申請準備を進める |
| ⑦登記申請 | 司法書士事務所対応、登記完了 |
| ⑧診療所開設許可申請 | 設立後の医療法人で開設⇒診療所開設許可 |
| ⑨診療所開設届 | 前日で個人開設診療所を廃止 |
| ⑩保険医療機関指定申請 | 生活保護法指定医療機関指定申請等、(公費負担医療指定申請)前日で個人開設診療所の保険医療機関廃止 |
【医療法人設立 STEP1】事前準備|法人形態・体制・必要書類の“下ごしらえ”
事前審査では以下の書類を揃えます。
- ①申請書
- ②定款案
- ③設立趣意書案
- ④財産目録、財産目録明細書
- ⑤設立時に引継ぐ負債の確認書類
- ⑥リース契約引継承認に関する書類
- ⑦開設する診療所の概要
- ⑧周辺図、敷地図、案内図、平面図
- ⑨土地・建物の全部事項証明書
- ⑩賃貸借契約書
- ⑪管理者の証明書類
- ⑫設立時の役員社員の履歴書等
- ⑬設立総会議事録案
- ⑭設立後2年間の事業計画・予算書
書類はただ揃えればいいわけではなく、バラバラの書類が線でつながるように辻褄が合うように作成するのがポイントです。
法人名称は皆様が悩まれる点です。
「医療法人社団●●会」が主流ですが、「会」がつかないカタカナ名称、ローマ字も可能です。
財産関係では医師個人の負債を医療法人に引継げるかどうか、その方法については管轄行政庁ごとにルールがあり、テクニカルな内容です。また金融機関との調整もあるため時間を要する部分です。
直近の確定申告書の提出を求めらることもあり、過大でない現実に即した事業計画を検討し、それをもとに予算書を作成します。
診療所の資産は原則として管轄行政庁が指定した基準日時点の減価償却内訳明細書の簿価で医療法人に拠出します。
基準日時点の減価償却内訳明細書は顧問税理士にご作成いただくケースが多いです。
診療所の概要では法人開設後の診療所の状況をヒアリングし、書類作成を行います。
添付書類として診療所平面図が求められますが、個人開設当初の図面と現在の構造が一致していない診療所が散見するので注意が必要です。(その場合は先行して構造変更届を行う必要があります)
また、建物等の不動産が賃借であれば賃貸借契約書を確認し、賃借人の地位を個人から法人に引継ぐ覚書の作成を行います。
建物所有者からの事前の承諾が必要なため注意が必要です。
役員社員の証明書類を集めるにあたり前提として、社員とは法人従業員のことではなく(ここは誤解が生じるところになります)法人運営の意思決定機関である社員総会の構成員のことをいいます。
合議体のため原則として3人以上必要です。
役員とは理事と監事であり、理事3人以上・監事1名以上を置くことが原則です。
医療法人の理事のうち、1名を理事長とし、医師又は歯科医師のうちから選出しなければなりません。
役員社員の構成で気を付ける点は欠格事由に該当しないか、勤務先で法人理事との兼務が禁止されていないかなどですが、選任で悩まれるのは「監事」かと思います。
監事は「理事及び法人の職員を兼務していないこと、また他の役員と親族等の特殊な関係がある者ではないこと」とされており、法人の業務や財産の状況を監査します。
親族を役員社員にされる方が多い中で、「誰に頼めばいいのだろう?」というご相談は多くあります。
また、「監事」という言葉から責務にご負担を感じられる方も多く、お断りされてしまうケースもあります。
役員社員構成は事前に検討し、当事者に打診しておくと安心です。
【医療法人設立 STEP2】所轄庁の事前審査|求められる資料と“すり合わせ”のコツ
医療法人設立認可申請書(素案)は本申請同様に押印書類と公的証明書(印鑑登録証明書、履歴事項全部証明書等)原本を除くすべての書類を提出します。
したがって医療法人設立認可申請書(素案)提出の段階で医療法人設立に関する全ての書類が揃っていることが前提になります。
事前審査での確認事項は「人的要件」「施設・設備要件」「資産要件」「運営要件」です。
人的要件
理事・社員数(管轄行政庁により異なる)、監事の責務、役員の欠格事由、理事長の資格など
施設・設備要件
開設する診療所の確認、構造と図面・契約書等
資産要件
設立後2か月間事業を継続するために必要な運転資金が確保されているか、業務を行うのに必要な資産を有しているか(財産目録、負債の引継ぎ等)
運営要件
非営利性の確保(定款の確認、事業計画書の確認等)
流れとしては、医療法人設立認可申請書(素案)提出後、2週間~1か月ほどで担当者から第1回目の確認事項の連絡
⇒修正や追加書類の提出⇒2週間ほどで第2回目の確認事項の連絡
・・・こちらの繰り返しで審査終了まで対応します。
【医療法人設立 STEP3】設立認可申請|必要書類を揃え本申請へ
事前審査終了後に押印書類や公的証明書の取得を行います。
押印書類が多岐に渡るため押印漏れがないように注意が必要です。
また、押印先により原本取得までに1か月近く要するところもあるため、スケジュール管理が必須です。
全ての書類が揃ったところで本申請を行います。(郵送か窓口提出かは管轄行政庁により異なります。)
管轄行政庁の指示どおりの順番で書類を組み、必要提出部数+控えの作成を行います。
本申請を指定期日内に行わない場合は事前審査が済んでいても取り下げとなるため、押印が間に合うように進める必要があります。
【医療法人設立 STEP4】認可後~設立登記|期限逆算と専門家連携のポイント
医療審議会が終わり管轄行政庁内の事務処理が終了すると医療法人設立認可書交付です。
本申請から医療審議会を経て認可までは2か月~3か月ほどの期間があり、その間に医療法人設立登記関連の準備と法人での診療所開設関連の準備を並行して行います。
設立登記申請は司法書士業務のため担当司法書士と連携し登記申請書類の準備を行います。
診療所開設関連の準備は医療法人設立認可申請書(素案)提出時に管轄保健所に並行して行っているため、事前相談での回答をもとに対応します。
【医療法人設立 STEP5】法人診療所開設|診療所開設許可申請⇒許可⇒開設届出・保険医療機関指定申請と各種届出の実務
診療所開設許可申請
事前相談時の確認事項をもとに申請書を準備
診療所開設許可
実地検査はいつか?(事前相談必須確認事項:東京都23区内、中でも都心部は診療所開設許可前に実地検査を行うことが多い)
診療所開設届
法人診療所開設日に開設届出がベストです。保険診療の医療機関の場合は開設届出⇒同日に保険医療機関指定申請がスムーズです。※法人診療所開設日の前日が個人開設の診療所廃止日になります。
保険医療機関指定申請
医療法人化の場合は例外的に指定期日を遡及して指定を受けることができます。(要件確認は必須です)※指定期日の前日に保険医療機関廃止届出が必要です。
施設基準の届出
個人開設時に届出をしていた施設基準は法人開設時に全て届出し直しになります。届出期日があるため注意が必要です。
公費負担医療の申請及び届出
個人開設時に指定を受けていた「生活保護法指定医療機関」「難病指定医療機関」「被爆者一般疾病医療機関」「結核指定医療機関」等は個人開設時の指定を辞退し、新たに法人開設の医療機関として指定申請を行う必要があります。各窓口によりスケジュールが異なるため事前確認が必要となります。
麻薬関連
麻薬管理者を置いている診療所と麻薬施用者のみの診療所で手続きが異なります。事前確認が必要です。
個人開設の診療所から法人開設の診療所に開設者が変更となるため関係各所に連絡し、指定の諸手続きを行う必要があります。
個人開設の診療所がどのような契約をし、どのような指定を受けているかで手続きが変わるため個別具体的な対応が必要となります。
担当税理士、担当社労士と連携し、税務・労務対応について調整します。
医療法人設立における管轄行政庁ごとの運用差と調べ方(窓口運用・審議会頻度・書式)
前提として管轄行政庁ごとに申請時期、申請先、提出部数、要件が異なります。
管轄行政庁のHPや手引きを確認し情報収集が必要です。
医療法人設立の実地検査対応|初めてでも安心の実地検査サポート(分院・定款変更時もお任せ)
保健所の立入検査は新規開設の医療機関に対して、医療法に基づいて行われる検査です。(法人開設も新規医療機関とみなされ該当します)
タイミングは管轄保健所によって異なり、診療所開設許可申請後、許可前に対応する保健所(医療法上は診療所開設後ですが、許可要件を充足しているかの確認として許可前に対応している)や診療所開設後に行う保健所があるため事前相談時の確認は必須です。
検査の目的は医療機関が医療法や関係法令を遵守し、患者が安全安心に医療を受けられる体制が整っているかを確認することです。
検査の流れも管轄保健所により異なりますが、通常は以下になります。
①保健所担当者と診療所管理者が院内をラウンドしながら図面と構造が一致しているかを確認
②院内ラウンド時に院内掲示、医薬品の保管状況、消毒設備の確認、感染性廃棄物のボックスの位置、エックス線装置の確認、消火設備をチェック
③医療安全管理指針類の確認(書類は診療所の状況に併せて相談しながら作成サポートをいたします)
④契約書等の確認、感染性廃棄物関係、医療機器関連、職員の健康診断の受診状況など(ご準備いただく書類は事前にご案内いたします)
⑤保健所担当者からの総評の報告
必要書類を事前にご案内し、書類作成をサポートします。実地検査当日は事前準備から対応します。